スープカレーの店に初めて入った人が困るのは、注文の多さだけではない。出てきた一杯を見て、「これは何でできているのか」が分からない。ルーカレーなら、ごはんとルーと具で説明が終わる。スープカレーは、スープと具とごはんが別々の部品として皿に乗っていて、しかもその部品ひとつひとつに店ごとの流儀がある。
この記事では、一杯のスープカレーを7つの部品に分けて、それぞれ何が起きているのかを図で見る。部品の名前が分かると、店選びが変わる。「濃厚で海老のスープの店に行きたい」と言えるようになるからだ。カレーライフの店舗データベースは、この部品の分類で店を探せるように作ってある。
一杯の断面図
部品1:スープの「濃さ」
スープカレーのスープには、まず濃さの違いがある。カレーライフでは3つに分けている。
あっさりは、油分を抑えた透明感のあるスープ。素材の出汁とスパイスの香りを軽く味わう方向で、最後まで飲み干せる。バランスは、出汁のコクとスパイスがほどよく釣り合った中庸の濃さで、誰にでも食べやすい王道。濃厚は、とろみとコクが強く飲み応えのあるスープで、動物系や甲殻類の旨みがはっきり出る。
この3つは優劣ではなく、好みの軸だ。札幌の人が「今日はあっさりがいい」と言うのは、この軸で店を選んでいる。
部品2:スープの「特徴」
濃さとは別に、スープの軸になっている素材がある。カレーライフでは7つの特徴で分けている。
| 特徴 | どんなスープか |
|---|---|
| トマト | トマトの旨みと酸味がスープの軸。札幌でいちばん多い型 |
| 和出汁 | 鰹・昆布など和の出汁が主役。札幌スープカレーの独自の発展 |
| 海老 | 甘海老など甲殻類の出汁が主役。香りで分かる |
| ココナッツ | ココナッツのまろやかさと甘みが際立つ |
| 牛骨 | 牛骨の旨みとコクが立っている |
| 薬膳 | 漢方・薬膳の考え方を取り入れたスパイス使い。スープカレーの原点でもある |
| 豚骨 | 豚骨のコクが特徴として立っている |
一つの店が複数の特徴を持つこともある。「トマトとココナッツの2種から選ぶ」という店は珍しくない。
濃さ × 特徴で、札幌の店はこう分かれる
表を見ると、店の集まり方に偏りがある。
あっさりはトマトと薬膳に集まる。 さらさらしたスープにトマトの酸味を効かせるのが、札幌の「軽い」スープカレーの定番の型だ。薬膳があっさりに多いのは、スープカレーの原点が1971年のアジャンタの「薬膳カリィ」で、もともと具の少ない飲むスープだったことと重なる。
バランスは和出汁に集まる。 鰹や昆布の出汁をスパイスに合わせると、濃すぎず軽すぎない中庸の味になりやすい。これは札幌が独自に発展させた型で、スープカレー系譜図で書いた「狂我国の弟子が和の出汁を足した」流れが、いまこの枠に残っている。
濃厚は、ココナッツ・海老・牛骨に分かれる。 濃厚なスープを作る方法は一つではない。ココナッツで甘くまろやかにする店、甘海老の頭を炊いて香りと旨みを出す店、牛骨や豚骨で動物の力で押す店。同じ「濃厚」でも、行ってみると別の食べ物に感じるのはこのためだ。
部品3:具(チキンレッグと素揚げ野菜)
スープカレーの具は、切られずに出てくる。骨付きの鶏もも肉が1本丸ごと、かぼちゃやにんじんが大きな塊のまま。これは見た目の演出ではなく、肉の旨みをスープに移しつつ身をぱさつかせないため、野菜はスープで煮込まず素揚げにして、野菜そのものの味とスープの味を混ぜないためだ。
野菜を小さく切って竹串に刺して出す店もある。2007年創業のSuageが始めた型で、いまは札幌のあちこちで見る。具の出し方ひとつにも、どの店が始めたかという系譜がある。
部品4:ライス(別皿で、量と種類を選ぶ)
ごはんは別の皿で出てくる。スープがさらさらなので、かけると器からあふれるからだ。量はS・M・Lのように自分で決め、白米のほかに雑穀米、ターメリックライス、サフランライスを選べる店もある。ごはんを「添え物」ではなく独立した部品として扱うのが、スープカレーの考え方だ。
食べ方は道民だけの常識10に書いた。スプーンのごはんを半分浸す、具をごはんに乗せる、最後に残ったスープへごはんを入れる。どれが正解ということはない。
部品5:辛さ(番号で、店ごとに違う)
辛さは客が選ぶ。ここまではどの店も同じだが、数え方に共通のルールがない。0番から12番の店、名前で7段階の店、100番近くまである店。だから初めての店では「ここの辛さは何番まで」と聞くのが道民の作法になっている。
カレーライフでは、辛さを店の属性として評価していない。客が選べるものは店の味ではないからだ。評価しているのは、客が選べない部分、つまりスープの濃さと特徴のほうだ。
部品6:トッピング
チーズ、納豆、うずら卵、追加の野菜、ラム、シーフード。店によって数十種類ある。納豆をスープカレーに乗せる習慣は、1984年開業のスリランカ狂我国から広がったと言われている。いまでは定番の一つだ。
初めての人には不要な部品でもある。何も足さなくても、店が出す状態がその店の完成形だ。2回目以降の楽しみとして取っておけばいい。
部品7:出汁の軸(店の設計図)
最後に、目には見えない部品がある。スープの土台になる出汁の組み合わせだ。「炒め玉ねぎと鶏ガラとトマト」「甘海老出汁」「鶏ガラと昆布・桜海老・サバ」「動物系の白湯と和風の一番出汁のダブルスープ」。店が公式に説明している範囲で、カレーライフは店舗ページの「出汁の軸」に書いている。
出汁の軸は、店の設計図だ。同じ「濃厚・海老」でも、甘海老の頭を毎朝炊く店と、海老の出汁を和の出汁と合わせる店では、設計が違う。店舗ページで出汁の軸を読んでから行くと、一口目で「ああ、これか」と分かる。
部品で店を探す
ここまでの部品のうち、濃さと特徴は店舗データベースの絞り込みに入っている。店舗一覧で「濃厚」と「海老」を選べば、その型の店だけが並ぶ。エリアページでも同じ絞り込みができる。
分類はまだ途中で、濃さが分かっている店は営業中のスープカレー店のおよそ4割、特徴が分かっている店は3割ほどだ。公式の説明や実際に食べた記録が増えるたびに埋めていく。「この店はこの型だ」とご存じの方は、curry.link宛にお知らせいただきたい。
本記事の部品の分け方と店の分類は、カレーライフ店舗データベースの分類体系(スープの濃さ3種・特徴7種・出汁の軸)による。各店の味の描写は公式サイト・公式SNS・紹介記事の説明を引いたもので、カレーライフが実際に食べて確かめた店は店舗ページに「実訪」の印を付けている。素揚げ野菜の型や納豆トッピングの始まりについては通説によるもので、当事者への確認は行っていない。